tail




あの頃に戻れたら。
あの場所に戻れたら。
もし戻れたなら、
もし行けたなら、
なのに。


 考えれば考える程わからなくなって、ティルは紙切れを放った。
 目の前には紙切れが山になっていて、紙切れ一枚一枚に一つづつ文字が書かれている。
「桜花、クリスは?」
クリス。この文字を書いた人。この国で唯一文字を書ける少年。
 わたしは、唯一文を作れる人だけど。
 ティルは、彼女からしてみればきれいな文字の紙切れをつまみ上げて意味の通る文に並べていく。
 並べながら思うのはクリスのこと。故郷を失い、でも帰りたがっていたクリス。そしてもうここには戻ってこないだろうクリス。
 桜花と呼ばれた少女はおよそ似つかわしくない長大な刀を抱えたまま壁の側に立っていた。桜花は和服の裾を一ミリも動かさずに答えた。
「かえった」


fin.