Das Schicksal 運命-2

 メイズ・ホウエルは白人である。青い目と薄い色の髪を持つ。三十代に入ったばかりだというのに髪には白いものが混じっていた。
 メイズは顔をしきりに手で拭きながら椅子に座った。重みと使用年月が椅子を軋ませる。
「昨日は随分おしゃれな場所に行ったみたいだな」
ウィルがその真向かいに座った。ウィルは金髪の優男である。メイズとは対照的な細面に、細いだけの手足は長い。彼は一流の狙撃手だ。
「いや、違う。情報を買いに‥。駄目だ、頭痛がする」
メイズはテーブル中に広げられたライフルの部品の一つを摘み上げた。
「今度はどこだって?ヨーロッパは大体回ったしよ」
「山向こうだ」
「山向こう?おっかねえ怪物がわんさかいるあの山の向こうか?あっちにはまだ行った奴なんてほとんどいないのに」
山向こう。ユーラシア大陸の西端に横たわる山脈。その山脈の向こうには未知の大陸があるという。
「わたしは行く。船を出してもらえそうだ。金はかかったがな」
メイズはライフルの小さな部品を適当に放り出して、おい飲み物くらい出せと零しながら冷蔵庫にずかずか歩いていった。
 ウィルは大切なライフルの部品のありかなど気にも止めず、腰を浮かせた。膝の上に広げられていた薄汚れた布切れが滑り落ちた。
「他にあるだろ、アジアの方とか。日本にだって――」
「日本?」
ソプラノの声に二人揃って振り返った。
 冷蔵庫の陰から少女が顔を覗かせていた。長い黒髪はまさに大道髪の如し、豊かに波うって、薄汚れた部屋の中で一際異彩を放っていた。それに映える真っ白い肌、黒真珠を嵌め込んだ様な目。小さな体を桜色の和服に包んだ、人形のような少女だった。
「日本に行くの?」
「ああ、いや、まだだ。オウカ。いずれ行くことになるかもしれないが」
少女―オウカはメイズが取り繕ったことなど気にしていない様子で、メイズの脇を通り過ぎた。
「メシ、まだだよな。メイズ連れてってやれよ」