水平線を見た

 生まれて初めて太陽を見た。厚ぼったい海水で屈折していない太陽光は明るくて眩しく、目の前が真っ白になる。操縦室の中に付いている休憩用の棒を手探りで探した。指が当たり、棒を掴む。棒を掴んだ腕で体を操縦室の中の水面へ引っ張り上げる。それに併せて操縦室から見える景色が上がった。沈んでしまうから足は立ち泳ぎを続けたままだ。眼を閉じても目の前がちかちかする。きっと今この限りなく人の形をした泳ぐための機械は水面で立ち泳ぎをしながら腕を上に伸ばして虚空を掴み、上半身を伸ばして顎を上げているに違いない。
 眼が眩しさに慣れてきたらしい。あおい。水平線が見える。
 これが、水平線。
 海と空の青にこんなに違いがあるとは。
 水面に太陽の光が反射して白く輝いている。見渡す限り広がった水面は波で輝く場所を変え続ける。頭部のカメラ映像が球状の操縦室を三百六十度覆っており、百八十度水平線が広がっている。
画面越しではない空と海はこれよりも鮮やかな青だろうか。
 この眼で見たい衝動と、操縦室から出たら死んでしまう恐怖心がせめぎ合っている。
 でも、この眼で見られるなら死んでもいい。

141215