logの悪夢

 世の中には対数とかいう訳のわからないものがある。二乗した数がどうのこうのと小数点以下まで細かくうだうだ言う、大根買うのに全く必要ない数学が存在する。


「ああ、頭の中でログが回る」
私は頭を抱えた。
 隣に座っている多香子がけらけらと笑う。
「数学嫌いだもんね、早苗」
私はうぅ、と唸って机に突っ伏した。
 広げていたノートの上だったから、大嫌いな数式が目の前を覆い尽くす。それを避けて目だけ多香子に向けた。
 多香子はアイスカフェオレをストローですすっている。
「いいよね多香子は。理系じゃん」
まあねー。と多香子が余裕しゃくしゃくの顔でVサイン。
「てかテスト前日まで勉強しないのが悪いんじゃない」
全く多香子の言うとおりだ。
 明日は期末テストの最終日で、数学がある。
 コテコテ文系の私は最終日なのをいいことに全く勉強していなかった。全く。ついでに授業は寝てたから問題だけ解こうとしても全く訳がわからない。
 しかも。
「早苗、今度赤はやばいんでしょ?」
やばい。切実にやばい。どの位やばいかというと、留年するくらいやばい。
「去年はなんとかなったんだけどなあ」
今回は本当に留年してしまう。
「てか何でログなんてあんの。意味わかんない」
「まあそうだけど。別に今だけ分かればいいじゃん、すぐ忘れちゃえば」
多香子はドーナツに手を伸ばす。
 新発売のやつだ。マンゴーとヨーグルトのソースが詰まっているドーナツ。味違いでアロエがあって、私はそっちにしたけどあんまり美味しくなかった。
「マンゴーどう?」
多香子はしばらくもぐもぐ口を動かして、
「微妙。ヨーグルトいらないね、これ」
いつもながらの痛烈な批評。
「そんなことはともかく、ほら勉強」
うう。
 もう嫌!ログなんて見たくない!!




Fin.