∫の逆襲
∫、これ、インテグラルという。
数学のわけわかんないログ、無駄に『′』をつける微分に次いで最高にわけわかんない数学。
記号の下と上にそれぞれ数字、記号の後に()に囲まれた関数式が続く。
誰もが顔をしかめる、積分の記号である。
私はめくった問題用紙に、ミミズがのたうったような線の記号を見つけて内心ガッツポーズを決めた。
静かな教室の中、シャーペンが書く音がまばらになってきて、寝息も聞こえる。
模試の数字が始まって、三十分ほど。あと一時間は時間が残っている。
私は理系の意地を見せようと、問題文を読み進める。
積分なんて楽勝だ。去年の期末、積分の分野はなかなか点がとれていた。
斜め読みすれば、結果的に二つの二次関数のグラフに囲まれた部分の面積を求めればいいらしい。
うんうん、いいねいいね。このテの問題は死ぬほど解いたし、積分では一番オーソドックスな問題だ。理系の意地の見せ所である。
二次関数のグラフは楽に書けて、交点も求めた。
えーと、インテグラルの、交点の座標が若いほうが下で‥。二つの二次関数式のグラフが上のやつからしたのやつを引いた式をインテグラルで解くんだっけ?
カリカリと問題用紙の余白に式を書いていく。
ミミズののたうった線の右横に二次式が出て、さて積分しようと式を展開する。
が。
あれ?
インテグラルの下の数字を代入して、上の数字を代入したのから引くのは覚えている。
重要なのはその前。
どの式に代入するんだっけ‥?
一段階変形させたような気がする。とにかく、このまま代入はしないのだ。
じりじりと手に汗をかいてきた。シャーペンに力を入れすぎて、出していた芯がぼきっと折れる。
・・・・微分するんだっけ?
苦しまぎれに絞り出てきた通りに微分して解いてみる。
マーク式の模試のため、問題文に空欄があってそこに数字を埋めていく。マーク模試の良い所は空欄の数で答の桁数がわかることだ。
答えがでた。
マークしようと問題文を見ると、桁数が違う。空欄は二つ、つまり二桁。出た答えは一桁。しかもプラス。
マイナスだったならあっている。
私はマイナスにならないか再び解き直した。
ならない。
どうやってもならない。
しばらく問題文とにらめっこしてふと時計に目をやると、針はあと残り十分しかないことを示していた。
「珍しいね、多香子が数学で惨敗なんて」
コテコテ文系な親友の早苗がタピオカ入りグァバジュースをじゅるじゅるすする。
あれ、美味しいんだよね。
「インテグラルなんて無くなってしまえ!!」
私は心から叫んだ。
Fin.