化学の罠
ベンゼン環。
スポーツドリンクによく書いてある六角形のこと。
多香子は震えていた。
机の上の回答用紙はまっしろである。
シャーペンを握る手がにわかに汗ばむ。
こっ、これは…!やばい。今度こそやばい。数学の比じゃないくらいやばい。
回答用紙が模試なみの欄の大きさなのだ。問題文には構造式を書け、とある。
耳を澄ませてもシャーペンで書き込む音はまばらだ。教室中の生徒が赤点の恐怖に震えていた。
化学のテスト。言葉だけ覚えれば楽勝と高を括っていたのがいけなかった。構造式を書け。化学だからこその問題である。
授業で一度は書いた事があるのだが。
六角形がキレイに書けなくて授業どころじゃなかったんだってば‥!
「で、また惨敗と」
パックのショコラオレを啜って、早苗はからからと笑った。
「しょうがないじゃない、だって気になるじゃない、キレイに六角形にならないと」
多香子は恨めし気に早苗を見上げた。
「多香子って定規で図、書くもんね」
A型の性というやつだろうか。
「それ一口ちょうだい」
「んー、だめ」
Fin.