「ビノー?」
酒屋の主は眉根を寄せた。それを見て、しまったと思うも時既に遅し。主はそんなもの無いよと無愛想に言うだけだ。

「だから、何でロシアでワインなのよ」
綾が抗議しても同行者の女は聞く耳を持たない。当然酒屋追い出されちゃったじゃないの、という綾の文句も無視だ。
「じゃあビールにする?」
「ロシアだったらウォッカ!むしろそれしか無い勢いなんだって」
海外旅行初めての彼女はそうなんだと頷くだけ。綾は怒る気力も削がれてへたりこんだ。
「お酒が美味しいとこが良かったならフランスとかにすれば良かったじゃない」
そうすれば知りもしないロシア語なんて勉強しなくて良かったのに。いくら帰国子女と言っても綾のいたのは英語圏だったのだから。
「やあよ。フランス人て軽くていやらしいんだもの」
彼女はそっぽ向いてホテルへ向かおうとする。綾は慌てて後を追った。
「なに、フランス人と何かあったとか?」
綾は彼女の顔を覗きこんだ。彼女の恋愛話は実に面白いのだ。
 彼女はそれには答えずに、
「今はとにかくワインが飲みたいだけよ」



Вино
ワインで乾杯!
(「次はイギリスにするわ。英国紳士って言うじゃない」
「食べ物不味いって聞いたけど」
「なら却下!」)



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嘘っぱちです。普通にワイン売ってると思います。