古びた木床の軋む音がある。頁をめくる音が絶え間なく巡る空間はかびの臭いで充ちている。
 狭いカウンターには二人の若い男がいる。
「あのオルゴール、デュラハートディーバはかなり昔からあるって話だよ」
頁をめくる若い男は本を閉じ脇にまた一冊、積み上げた。
「この町の住人のデュラハートディーバの決まりその一、」
「螺を回せるのは"大切なものを失くした"人だけ?」
「知っているじゃないか。その二、デュラハートディーバが歌っている姿を見てはならない」
「なぜだい?演奏中見て楽しむオルゴールだってあるだろう」
「デュラハートディーバはそういうオルゴールじゃないんだよ。誰も歌っている姿を見た人はいないんだ」
「おかしいぞ。螺を回した人は歌っている姿を見れる筈だろう」
「そうだね。でも誰も見た事がないんだ。螺を回した人は戻ってこないから」
木床が軋む音をたてる。一歩、若い男が退いた。
「その三、デュラハートディーバの名前を呼んではいけない」
頁をめくりながら若い男は続けた。
「呼んだら彼女が生まれ堕ちてしまうから、だそうだよ。生まれ堕ちてしまったら彼女は再び身体が朽ち果てるまで生き続けなければならないだろう。言い伝えによれば永遠に動く心臓を持っているんだから。それを哀れに思って呼んではいけないことになっているんだ。突っ立っていないでこれを運んでくれないか。奥の棚の前に置いておいてくれればいいから」
頁をめくり終えた若い男がもう一人の、一歩後ずさったままの若い男に本を一山抱えさせる。
 司書の若い男が指した奥の棚の前にはいくつもの山がある。
「まだ気になることがあるなら喫茶店の親子に聞いてみるといいよ。あの親子だけは例外なんだ」


機械仕掛けの心臓は動き出す



-------
お題借用元:カカリア
090422