090806開催一次創作リアタイ茶での作成文。
お題:向日葵の種を一緒に植える冷えたボトルを押しつける夏休み











お題「向日葵の種を一緒に植える」


 枯れた向日葵の茎を手折って、彼は言った。向日葵の種を植えよう。
 すっかり茶色くなった向日葵には爽やかなあの真黄色い花びらはもう無い。せっせと種を取る彼に、私は、どうしてそんなことをするの、と尋ねた。一面に広がっていた真黄色い向日葵畑はきっと来年も私たちの知らぬまま、誰か私達が知らない人達の手によって準備されて花を咲かせるに違いないのだから。
 彼は、向日葵の種を私に差し出して言った。今、君と種を植えることに意味があって、花の種類や場所は関係ない。でも、向日葵は僕が好きだから、だから花の種類に意味はあるのかな。
 彼の好きな向日葵の――私が好きだと言ったから、好きだと言ってくれる向日葵の種を、私と彼は夏の終わりのある日に向日葵畑の一角に植えた。

「楽しみになんて、なっていないじゃない」
一年の経った向日葵畑には、彼が唯一この世に残していった"彼"は真黄色の中に紛れて、私には見つけることができない。
 来年の楽しみになるだろう。そう言って笑った彼が、私はまだこんなにも愛おしいだなんて。

fin.

090806 凌和











お題「冷えたボトルを押しつける」


 屋上へ続く階段は熱気が籠って校内の他のどの場所よりも暑いみたいだ。ワイシャツを湿らせる自分の汗が気持ち悪くて、出来る限り短くしたスカートの中にまで熱気が籠ってるんじゃないかと思うくらい。だけど、あのひと際重くて熱いドアを開けると校内で一番涼しくて気持ちのいい場所に出ることができる唯一の通路。お菓子の詰まったコンビニのビニール袋とキンキンに冷えたペットボトルを二本抱えて、階段の残り二段を勢い付けて飛び越えた。重いドアを開け、屋上で待つ親友の頬にペットボトルを押しつける。驚く親友と笑いあいながら、感じた風は最高に涼しいみたいだった。

fin.
090807凌和











お題「夏休み」


 彼女に出会ったのは夏休みに入ってすぐだった。夏休みじゅうずっと父方の実家で過ごすことになって、こんな田舎嫌だと思いながらも子どもの自分にはどうすることもできない嫌な気分でおばあちゃんの家へ向かっている途中だった。おばあちゃんの家にはおばあちゃんと伯父さん夫婦と年の離れた大きな従兄が住んでいたけれど、腰の悪いおばあちゃん以外は皆仕事やら用事やらで、迎えに来る人は一人だっていなかった。
 バスを降りて、手書きの地図を眺めながら歩いていたとき、人気のまるでない道ばたにふと目が止まった。女の子が一人、ぽつり、立っていた。白いワンピースと黒くて長い髪、大きくて黒い眼をした女の子はぱっと見お嬢様みたいだった。でもここは蝉が煩くて、あるものと言えば畑ばかりの泥くさいへんぴな田舎で、お嬢様がいるような避暑地なんかじゃなかった。
「ねえ、君、どこから来たの?」
じっと見ていたのに気づいたらしい女の子に声を掛けられて、僕はどぎまぎした。必死になってそれを隠して、
「東京」
でもそのくせ一言しか言えなかった。
「へえ、いいなあ。私、いつか行ってみたいんだ、東京に」
女の子は僕の後を付いてきながら、東京についてあれこれ質問した。僕は戸惑いながらいちいちそれに答えて、それ以来この少女と毎日顔を合わせる羽目になった。
 おばあちゃんの家は典型的な古い日本家屋で、ある日の午後、涼しい縁側で寝転がって宿題をしていたときだって、彼女はいつの間にかひょっこり現れた。
「宿題?懐かしいなあ、私はね、最後の日にまとめてするタイプだったの」
彼女はお決まりの白いワンピース姿で、僕の宿題を覗き込んだ。懐かしい、という発言に僕はびっくりして、すごく童顔なのだと思った。
 夏休みが終わりに迫ってくると、彼女は会う度に、夏休みが終わったら帰ってしまうんでしょ、と寂しそうに呟いた。
「東京まで会いに来ればいいのに」
夏休みの終わる二日前、僕がそう言うと、彼女は今までで一番きれいな笑顔を見せた。
「そうね、いつか会いに行くね」
そうやってひと夏じゅう顔を合わせていたにも関わらず、次の日彼女は見送りに来なかった。夏祭りだって肝試しだって一緒に行ったくせに薄情なやつ。それ以来父方の実家に行っていないから、彼女ともそれ以来会っていない。もう何年も過ぎたが、少女は今もまだ、あの片田舎で都会を憧れ続けているのだろうか。僕は夏が来る度、あの少女の事を思い出す。

fin.
090807 凌和
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ありがち。