禁断の味

「これ、ゲームだろ? そんなら気にするこたあねえよ」
 Penを咥えたオッサンが言ったのを、オレ達は腹を抱えて笑った。
「ゲームなんてだっせえの、初めて聞いた!」
 ゲラゲラ馬鹿笑いをするオレ達にびびって、オッサンはまくしたてる。繰り返し、はあっゲームだろって。
 そうだ。昔々はゲームとか呼んでたらしい。オレ達世代では『リアル』だ。もっと昔々は字とか絵だけでやり取りしてたらしいけど、そんなんで話してる気になってたとかどんだけの想像力だよ。やっぱ顔とか空気とか、そういうの肌で感じねえとわかんねえって。現実だろうがリアルだろうが、友達とつるめるのは変わらない。変わるのはリアルで死んでも現実じゃあ死なないってことだ。
 だからオレ達はリアルでpenをやる。
 ドラッグより手軽で、分かりやすくて馬鹿馬鹿しくて、でも現実じゃあ確実に死ぬ。
 Penは味付きのボールペンだ。日本企業が、匂いの次に目を付けた付加価値。フルーツ、菓子ときて料理、カレー味が出たときに、ガンで死亡者が出た。ボールペンを舐めすぎたことによる発がん性物質の過剰摂取が原因でガンになったらしい。それまでにボールペン舐めの中毒性が問題視されていて、味付きボールペンは即行生産も販売も禁止になった。だけど禁止になったから、味付きボールペンはpenなんて呼ばれてコソコソやり取りされ、その後ろ暗さが中毒を加速させた。
 現実じゃあ規制がどんどん作られていって手に入らないが、リアルならまだ簡単に手に入る。しかも死なない。だからこうやって、リアルの人気の無いルームで集まってpenをやり取りする。
 今日手に入ったのは最新作のオムライス味だった。ケチャップ、デミ、ハヤシからソースまで選べる画期的仕様で、しかもハヤシはカレーと同時発売されたときの使い回しじゃなく、オムライスのために新しく調製し直したらしい。
「ハヤシまだかよ」
 小突くと、マコトはちゅぱちゅぱしていたオムハヤシpenをオレに放った。オムハヤシは一本しか手に入らなかったから、リアルのpen仲間で回し舐めすることになった。水に漬けてちょっときれいにして、penを咥える。噛んで固定して、舌の真ん中でボールペンの先っぽを押して動かすと、じんわり味が出てくる。甘い卵と、酸っぱいような甘いようなハヤシ、チキンライス。
「知ってっか、今度アメリカンショートヘア味が出るんだってよ」
 舐めるpenがないマコトが、手持ちぶさたににやにやする。はあ? 聞き返すけどpenのせいでもごもご言うだけだ。
「とうとう猫だぜ。禁断の味だよなあ」
 どんな味なのか想像もつかない。だって猫だ。しかも猫味でなく、アメリカンショートヘア味。気になりすぎて口の中のオムハヤシなんか感じ取れない。


160412
#物書きさんに無茶ぶり
物書きさんへの20の質問とお願い
Rフォロワーさんから三つお題を貰って小話
 ・ゲーム
 ・ボールペン
 ・オムライス
 ・アメリカンショートヘア