300字SS「もっていないもの」

 お互いの服を選ぶ母娘を見かけた。広場で開催されているバザーの中で、母は娘に、娘は母に、手に取った服をかざして、ああでもないこうでもないと笑い合っている。
 イオレは通路向かいの、その光景から眼が離せなかった。新米魔術師のまじない道具なんかこの、第三首都エイローテでは見向きもされない。日用品と同じに並んだまじない道具みたいに、イオレも都会のものとひとに埋もれ同化して、母娘の背景のひとつだった。
 イオレには母親との思い出がない。だが羨ましいとは思わなかった。ただ、どんな感じだろう、と想像した。父親とはどう違うだろう。どんな心地がするだろう――。どんなに考えても、答えは出ない。


2016/5/7twitter300字SSに参加したもの。お題:子