この月が欠けなくても
凪いだ海面に一筋、光が延びている。くっきり岸まで一直線のそれは月灯りだ。
白い筋の中に微かな影がある。海面から空へ、伸びる腕。なにか掴もうともがく手。光の中でのみ存在できる手。
請海は背に後付けした翼の出力を下げた。
月灯りの筋へ滑り込む。もがく手を掴んで、引く。ちゃぷ、ちゃぷ、水音と海面の向こうに顔が見える。出力を上げようとして、よろめく。翼が崩れ始めていた。光の中では存在できない翼。
この月が欠けたら、この手は解けて消える。
無理矢理出力を上げた。翼の部品を振りまきながら、引く。顔が出るまで。
だれ? 尋ねる顔を、請海は自らの影に入れた。顔は闇の中へ解けていく。その顔へ、答える。あなたたちを消すもの。
161001
Twitter300字SSに参加したもの。
お題:月