魔法の火

 この世界の魔術≠ヘ化学だ。
 人間の指では大きすぎる、とても小さな次元で物質に働きかける技術。
 だから、いくら魔術≠ニ呼んでいても火を点ける事は易しくない。魔術の手順を踏むよりずっと、マッチを擦ったほうが早くて簡単に済む。
「ええー」
 そんな説明をすると、叔父の恋人は不満げな声をあげた。
「私も、がっかりしました」
 年下の環でも可愛いと感じる女性。彼女がばたつかせる足を隠すテーブルも、木製だ。
 木のテーブルを感覚で燃やしたことがある。きっとこの面倒くさい火というものが、環のこの身には合っているらしい。
 あれは父が新しい母親を連れてきた時だった。
 もしも今、このテーブルを燃やしたら、叔父はどんな顔をするだろう。


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Twitter300字SSに参加したもの。
お題:火・炎